画家村上華岳の言葉 2
無事是貴人
何というあわただしい人の姿だらうか。
私は「静さ」を最も愛する人間である。静さの中にほんとうの「動」を感じるのだ。
無暗に人世の外側を走り廻っても何にも得るところはない。其処いは「力」もなんにも
見出されない。何等根深いものがないのだ。
むやみに動くというふことはよいことではないのだ。
悠然と山を見てゐる所に本当の「動」が感じられる。この境地にあれば、朝に生れて夕べに
死んでも後悔はない筈である。
「無事是貴人」といふ語がどこかに書いてあった。これは安価な禅語めくが、この表面的文字
の意味はともかくも、あまりに忙しくあわただしいといふことは有りがたいことではないのだ。あまり
にそれは人生を浪費してゐるのである。(昭和1十年)