『透明な力』不世出の武術家 佐川幸義
この本は初版は1995年3月24日に講談社から刊行されています。武術の世界には全く無縁でしたが
とても刺激的でした。なにが刺激的だったかというと我が国古来の武術の精髄を体現自証された武道家
が同時代に現存していたという事実です。直弟子である著者木村達雄氏が師匠佐川幸義大東流合気柔術
宗範(明治35年7月3日1955~平成10年3月24日1998 95歳)から教えられた武術鍛錬の訓言を
述べた貴重な一冊です。
どんな世界でも一流とか達人とか尊称される人間がいるものです。佐川先生も例外ではありません。厳しい
合気柔術の鍛錬をなくなる前日まで精進した驚異的な武道家です。その言行録を書物にしたことで、
人間の無限の可能性を世間に知らしめた功績はじつにはかりしれないものでしょう。
直弟子が師匠の言行録を記録することは古来から行われてきています。宗門でいえば、開祖道元の
教えを祖述した名著『正法眼蔵随聞記』が思いだされます。たとえ生きた世界が異なっていても、
達人の言行には素晴らしい訓言がたくさんあります。
技はすべて精神力をのせてやるのだ。形がどうのこうのと無気力でうじうじやっていてはいけない。
普通、人は倒すには力がいると思っている、しかし本当は倒すのに力はいらないんだね。もっとも
大切なのは精神だ。どんな者だってやっつけてしまうという気力がなければとてもできない。ここが
一番大切なところだ。
鍛錬といっても体をうごかす事ばかりでなく頭を使う事もふくむのです。
あんたらと私とでは考え方も全然ちがう、鍛錬にしても研究にしても生活にしみついているようで
ないと全然だめだ。要するに熱意が足りないのだ。自分で開発していくんだという考えがなくただ
教わった事を繰り返していたってできる用意なる訳ないでしょう。私だって若い頃は理論なんて
まったくわからなかった。それが段々わかってきた。今の人はなんでも教わってうまくなろうと
いう考えだからだめなのだ。