「おとうと」という小説は幸田文の作品のなかでもよく知られたもので、げんと碧郎の
姉弟を中心とした家族の有り様を題材にした小説でした。尊父露伴を昭和19年にみとったあと、文は
出版社からの依頼で亡き父の思い出を綴り始めます。それを契機として徐徐に
女流作家の道を歩き始めました。文には父の遺伝ともいうべき作家の血がたしかに
流れていたわけです。特に父である露伴から格別の文章作法などを伝授された
わけでもないのに、鉛筆で原稿用紙を埋めた文章が世間を驚かせたわけですから
才女であったことはたしかでしょう。その文が自分の家庭のありさまを姉弟を中心
に書いた作品が「おとうと」でした。私の書架には「露伴全集」「幸田文全集」も
揃えており、ときおり取り出しては拾い読みしております。
この作を映像にしたのが今は亡き市川昆監督の「おとうと」です。露伴役は森雅之
後妻役は田中絹代、姉役は美人の岸恵子そして弟役は若き川口浩という面々。
昭和35年度の芸術祭参加作品でした。ツタヤから借りてきたこのビデオですが
、さっそく見終えたところです。当代一流の人気俳優連を脇役にして重厚な
作品に仕上げています。11月には文からみて孫の青木奈緒さんが吉野せい賞の
記念講演会こられることを知り、市川監督作品に出合いました。
一代の大文豪露伴も明治時代には平駅前の旅館に宿をとったことを記す紀行文も残し
ています。その娘文女史もかつて平市に講演で訪れたこともあります。
露伴から数えて四代も作家をだしている家族も珍しいですね。