秋は晝よりも夜こそをかしけれ。されど其の夜のおもむき、春の夜の
やはらかみ有りといふにも無く、夏の夜のいさぎよさありといふにも無く、
また冬の夜のさびあるにもあらず、たゝ秋の夜はおのづから是れ秋の
夜にして、必ずしも心悲(うらがな)しとのみにはあらざれど、強いて
言はむには猶然(しか)言はむよりほかに辞(ことば)も無かるべきにや。
(『露伴全集』第三十二巻収録)
自然の情趣を味わううえで露伴の名文はとても有益ですね。ときおり
書棚にある全集を開いてみると小品ですが、こんな素敵な
文章にであうことができました。現代の作家たちにこうした名文を望む
ことは無理でしょうが、幸いなことに格調高い美文を味わうことができる
のは嬉しいことではあります。