観桜茶会と銘打って毎年4月の桜の季節にあわせ、知り合いの茶友と一碗
の茶の湯を楽しむようになって、すでに10年以上も過ぎました。
この頃は折節に揃えた茶道具も少なくなく、おのずと整理をしなくてはと
感付き茶道具棚をのぞいてみたら、奥のほうから急須がでてきました。
ああ、あの有名な幕末の女流歌人太田垣蓮月尼作のもの。手元にある
「蓮月尼全集」をぱらぱらとめくりながら、しばし清高な和歌のかずかずに
ひたりました。尼のきびしょつくりは当時から定評があり、清らかな和歌と
ともに求める人々が多かったとか。そのきびしょについて、与謝野鉄幹(寛)
が「蓮月尼の事ども」にこんな逸話を紹介しております。
尼の陶物(すえもの)を偽作する者、京の中に多く出て来りしに、
尼は「我が真似をして口すぎになるならば幾らにても真似したまへ」
といひ、その偽作する人人の中には、尼につきて、陶ものの作り方
を学べる人もあり。されば尼の陶器に偽物いとおおけれど、皆尼の
黙許しつるなりと父は語りき。
生前から偽作を公認していた蓮月尼でしたが、私の所蔵している急須
は果たしてどなた様の偽作なのか。あるいは本歌(本物)なのかと
想像するのも一興ではあります。
やどかさぬ 人のつらさを なさけにて 朧月夜(おぼろづくよ)の
花のしたふし
くちづさむたびに蓮月の聡明でやさしい人柄を想いだします。