芭蕉の名句

松尾芭蕉といえば俳句の創始者としてあまりにも有名です。春も本格的になってきましたので

春の句を紹介します。

  八九間 空で雨降る 柳かな

 青柳が枝垂れた一叢に、細雨が銀絲を繋ぐ、目前の有様を写生した句と見えます。柳の
下に佇んだ作者が、空を仰ぐと、雨は降りながらも、柳に煙って、纔かに樹頭八九間の高み
のみが、雨の姿を見せて、しとしとと降っているのを認め得たのであります。昔から柳に降る
雨を、煙雨と見立てた詩などが見えますから、この句はそこらに胚胎して作られたものと
思われます。此句の附け句は「春の鴉の畑掘る聲」とあり、好個の附句として有名であります。

                    評釈芭蕉の名句 幸田露伴閲 昭和9年 資文堂発刊より